道迷いの心理 2013.10.01 岩ア照幸
1.「正しいはず」という正常化のバイアス
一つ一つの判断は大きく間違っていないが、情報が少なかったり過去(歩いてきた)の情報や判断とのつながりを無視
して、現在見えているものだけで短絡的に判断する。
2.「せっかくだから」
人は、今したばかりの結果を無にする行為には抵抗がある。特に下山道では登り返すには大きな抵抗が働き、「せっか
く此処まできたのだから」と言う心理状態に陥りやすい。その結果「とにかく下って行けばなんとかなる」と思い込ませ
てしまう。下るほど分岐していく尾根の特徴と相まって道迷い発生を増やしている。
3.「なんとかなる」、根拠なき楽天主義
山歩きに道迷いはつきもの、多くの場合多少時間がかかっても自力で復帰できる。反面、それが道迷いを軽視する。
「自分ならどうにかなる」といった「根拠なき楽天主義」に人はとらわれやすい。しかし、「いつものトラブル」と山岳
遭難は紙一重である。
4.「間違ったら恥ずかしい」
リーダーの心理。プライドが働き不安を無理に消し去ろうとする。よき安全弁である「不安」が機能不全に陥る。
5.自信過剰傾向とリスク・ホメオスタシス
経験を積み読図力が高くなると難しい山やルートにも挑戦するようになる。自信過剰傾向から自分の力量を越えている
事もある。結果として高くなった読図力を打ち消し、むしろ道迷いを増やしている。自分の力量を客観的に把握する努力
と「リスクを下げたい」と言う強い意志のみが道迷いを減らす事が出来る。
※「リスク・ホメオスタシス」;人は安全対策でリスクが減ると、その分だけ行動を危険な方向に変化させるので、長期的
には安全対策は無効になる。
6.「本当に戻れるだろうか?」
自力ではどうしようもない⇒恐怖心が訪れる⇒「パニック」になる⇒合理的な判断が出来なくなる⇒滑落、転落⇒遭難
7.その他
地理的不案内、計画の無理、日没、パーティーの分離 など
8.まとめ
道迷いはルート維持の失敗と現在地が把握出来ないことから始まるが、「自分は間違っているかもしれない」となか
なか思えず、情報を自分の都合良く解釈する。
道迷いは様々な要因から生まれ、ルートの逸脱と現在地の見失いが、人間の心理的傾向によって、悪循環的に拡大し
目的地への到着 を妨げる現象だ。
参考文献;「山岳読図大全」村越 真著 (株)山と渓谷社 (¥1.880+税)
現在地把握の補助技術
道迷いになる大きな要因として現在地把握が出来ないことがある。地図読み以外の補助技術を考える。
1.歩測による距離の推測
2.コンパスを使う
地図上で位置が分かる目標物を二カ所計る。
3.高度計
地形を確認して高度計を見て場所を把握する。
誤差=0.00366×気温×高度 (標高差1000m地点で5℃変化すると18mの誤差になる)
4.GPSの利用(得たもの、失ったもの)
道迷いの判断の必要がなくなり、道迷いがなくなる。が、自分で登るのではなく機械が山に連れて行ってくれるみたいに、
山を眺めたり周囲の地形や森の種類を確かめることもなく、画面を見ていればよい。
しかし、人はなぜ山に登るのか、大自然と言う日々変化し人間の力の及ばない大きな存在と、自分の
能力を使って格闘する行為が楽しいから。さらに山頂へ至る魅力有るルートを登り切ったことや、山頂に
立った達成感が素晴らしいから とおもわれる。